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リネン工場の現場改善&生産管理術
今のこの状態は正常なのか異常なのか
今回は現場の管理者にとって必要な着眼点とでもいうべきものについて述べたいと思います。
これは自分がまだ20代の頃、トヨタ生産方式の産みの親であり、元トヨタ自動車の副社長であった大野耐一氏や、トヨタのいくつかの傍系企業の生産調査室の方々とさまざまな業種の生産現場を一緒に回らせていた頃に遡ります。
当時、自分が本誌の発行元であるクリーニング業界紙のゼンドラの記者であったことから、クリーニングの現場を視察したいとの連絡が、その生産調査室・室長のI氏よりありました。 そのころ自分が執筆し、ゼンドラで出版したクリーニング工場へのトヨタ生産方式の導入をテーマとした書籍『クリーン忍術心得帖』が業界内外で話題となっていたため、一度クリーニングの現場での導入の実態を見てみたいとのことだったのです。
見ると言っても、見学ではありません。見るではなく「診る」の方が正しい表現でしょう。どんな改善をしているのか一度「診て」みよう、ということです。
かくして紆余曲折を経て、複数のクリーニング工場で現場視察が行なわれました。詳細は省きますが、その時は驚きの連続でした。とにかく現場を見る目、着眼点が違うのです。なかでも、もっとも衝撃的だったのは、ひとつの投げかけられた質問でした。
「今のこの状態は正常なのか異常なのか」。
おそらくですが、当時の業界でそのような視点で現場を見るということは皆無でした。今なら分かることがたくさんあります。たとえば現場を診断する上で、基準が無ければ判断できないということ。今の状態をどのようにとらえて作業をしているのか、あるいは問題点を認識した上で仕事をしているのか、など。
しかし、当時の自分にはそれに対してまともな返事ができませんでした。第一、自分はその現場の人間ですらないのですから。
それはさておき、そのひと言が実に大切であるということは、当時の若造の自分にもよく分かりました。工場を管理・運営するということの本質をひとことで言い表したといっても過言ではないでしょう。あるいは、自分に対して現場を見る目の甘さを指摘されたのかもしれません。
かくして現場における正常とは何か、異常とは何か、そしてそれが分かるということはどういうことか、ということに考えを及ぼせざるを得ませんでした。
また、それを考えるということは、管理とは何をすることかということに直結しました。管理とはひとことで言えば、正常な状態を維持することです。あるいは異常を発見したらすみやかに正常な状態に戻すことです。
ですから管理とは抽象的な概念ではなく、正常・異常を判別する具体的な行動であり、可視化・数値化され誰の目にも分かるものでなければならないこと、また問題点発見のツールであるといって良いでしょう。
また、管理と並んで使われる言葉に改善があります。現場を良い状態にするという意味ではどちらも大切なのですが、実際に行なう上では順番があります。管理が先で改善が後です。後といったら語弊があるかもしれませんが、管理ができないところでの改善は、効果が定着しません。やっただけで終わってしまうことが多いのです。
トヨタ式を導入する時に良く言われることとして、5Sができないところではトヨタ式はできない、5Sは改善の大前提、というのがあります。5Sはモノの管理そのものであり、モノの在り方としての正常・異常の判断が極めて分かりやすいです。現場での5Sが大切なことを強調する理由がまさにここにあります。
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