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リネン工場の現場改善&生産管理術

「先入れ・先出し」の意識をもって順番をつける

伊藤良哉 (いとうよしや)

前回は少しだけ「セット生産」ということに触れてみました。トヨタ生産方式にはその特長をとらえた表現がたくさんあるのですが、そのうちのひとつが「セット生産」です。

トヨタ生産方式といえば「かんばん方式」が一番有名ですが、その他にもいろいろな表現があります。まっ先に浮かぶのが「先入れ・先出し」です。「先入れ・先出し」とは、文字通り先に工程に入れた物が先に出てくる、つまり物の生産工程に流れがある、あるいはものの管理に順番がつけられているということです。

ことばで言えば簡単ですが、実はこれがなかなか難しい。日常的なことでいえば、冷蔵庫の中にいつまでも手つかずの食料品がたまってしまうことがあります。先に買った物を奥に詰めてしまうと、取り出しにくくて結果的に取り出しやすいところでものは循環し、奥の物はいつまでも手が付けられないまま滞留してしまう、ということになりがちです。

これなどは「先入れ・先出し」ができていない最たる事例でしょう。リネン材の保管庫などでもよく見られる風景だと思います。山積みにされている一番下のリネン材はいつ取り出されるのだろう、とか、工程間に台車が複数台停滞していて、どちらが先か後かわからなくなるとかということがあります。

さらにそれ以前の問題として、日ごろの作業の中で、物の出し入れや工程間の仕掛り品に順番があるという意識が薄いということが挙げられます。特にリネン工場のように似たような製品を扱っていると起こりがちですが、どんなものにも順番がある、順番をつける、というのがトヨタ生産方式の考え方です。

順番という視点で現場を見た途端にわかることがあります。それは第一に工程の能力差です。後工程と前工程の間には、必ず仕掛品ができますが、スムーズに流れている時はこの仕掛品が一定量になります。しかし前工程の能力が勝っていれば欠品が発生、手待ち状態となり、後工程の能力が勝てば工程間に停滞が発生します。

たいていの場合、後工程に欠品を起こしてはいけないという意識が強いため、停滞が常態化している現場が凄く多いのですが、停滞が発生した途端に順番が守りにくくなります。順番が守りにくいほど停滞したという時点ですでに問題なのですが、順番をつけると自ずと生産の流れが見えてきます。

細かいことをいえば作業時の不良品発生も順番を狂わせる原因です。たとえばシミ・汚れが見つかってラインから外された物はいつ良品となり戻って来るのか。リネン工場は最終的に数が合えば良いというところがあるので、不良品に対する意識が一般の製造業とは比較にならないほど低いですが、これも順番を守るという意識で見ると、そこに問題有り、ということになります。

以上のようなことからもわかるとおり、作業や物の管理に「先入れ・先出し」の意識をもって順番をつけるということは、物の移動に流れを作る、ということになります。単に作業をしていても、そこに順番が無い現場には流れはない、ということです。

自分たちがかつてよく指導して頂いた元トヨタ自動車・副社長の大野耐一氏に言われたことは、大河のような川幅の広いゆったりとした流れはダメで、渓流のような細くて速い流れにしなくてはならない、ということでした。  川幅が広いとあちこちに滞留ができ、ムダが生じていてもわかりません。反対に速い流れを作るには、ムダを廃しよどみを無くさないといけません。一度そのような目で自身の現場をご覧になってください。 (つづく)




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この記事の著者

伊藤良哉 (いとうよしや)

◉1959年1月生まれ、名古屋出身。

◉1983年全国ドライ新聞社(現ゼンドラ)に記者として入社。

その間にトヨタ生産方式の物の見方・考え方に触れ、クリーニングでの現場改善に力を入れた取材・執筆活動を行う。またその活動を通じて、トヨタ生産方式の産みの親として世界的に著名な元・トヨタ自動車工業副社長の大野耐一氏と出会い、師事して各地を歩く間に精神面・活動面ともに多大な影響と薫陶を受ける。

◉1985年に改善コンサルタントとして独立、1989年には株式会社エムアイイーシステム研究所を設立。さまざまな業種対象にトヨタ生産方式に基づいた現場改善のコンサルティング活動行なう。これまでに手掛けてきた業種は、クリーニング業はもちろんそれ以外に、リネンサプライ・食肉加工業・水産加工業・自動車関連部品工場・米穀業・窯業・塗装業・染色工場・測量事務所等と多岐に渡っている。また作業改善・体質改善だけでなく、新人社員研修、工場管理者研修、マニュアル作成等、講演やセミナーも同時に行う。

◉「クリーン忍術心得帖」パート1・2を著作(ゼンドラ既刊)を筆頭に著作も数多い。


主な著作

・「クリーン忍術心得帖 Part1〜11」

・「現場改善実践マニュアル」

・「アパレルの仕上げ術・1〜3」

・「アパレルの仕上げ術・Q&Aハンドブック」

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