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毛利セミナー公開講座より
㈱オフィス毛利(神戸市東灘区、毛利春雄社長)では、今年も10月に「毛利春雄セミナー公開講座」を神戸で開催。今回で20回目の節目となることから、「原点に戻って、私の身の回りで起きている事実、気づかなかった事例、新たなアイデアの発想等々を話し合って、少しでも今後への糧になるようにと企画した」という毛利氏による基調講演は掲載済みだが、他の登壇者の講演概要を紹介する。
異色のアイテム、剣道防具洗濯の誕生秘話
㈲大佛露木幹也社長
剣道の防具を洗い始めて8年。防具には「洗う」という文化がないので、臭いんですよ。中学生以下の少年剣士が集まる大会が、毎年夏に日本武道館で行われます。全国から2〜3000人は集まるのですが、その会場もめっちゃ臭い!
自分自身が小2から25歳くらいまで剣道をやっていて、その後は仕事が忙しく17〜18年ブランクがありましたが、私がそんなに剣道をやっていたと知らない妻が、子供を近くの剣道道場に行かせました。
すると妻から、しつこいくらい「剣道クサイ!」と言われ、「クリーニング屋なんだから、どうにかならないの。洗いなさいよ!」というのが剣道の防具クリーニングを始めたきっかけなんです。
私も子供と一緒に剣道を再開したので、自分や子供の、子供の友達の防具をボチボチと洗い始めました。少しずつ「防具って洗えるんだ!」という所から始まり、まあまあ評判がよかった。すると、妻が「あんた経営者なんだから、ちゃんと商売にしなさいよ!」
剣道は武道でもあるので、道具屋でもないのに商売をするのは、実は剣道界では、なかなかハードルが高い。そのため最初は知り合いから知り合いへ、という感じで、こそこそやっていました。
そして、真剣にビジネスとして成立するのかということで、調べてみました。剣道は「趣味の世界」なので剣道人口と剣道オタクというのがいるのですが、日本の剣道人口は、なんと177万人!これは全日本剣道連盟の登録者や有段者の人数などから割り出したものだと思います。ちなみに柔道は16万人ですから、柔道の約10倍いるということです。
世界で見ても、意外に柔道より剣道の方が人口が多くて、剣道は日本も含めて250万人。人口的には、武道の中では剣道が断トツのようです。
一方の剣道オタクですが、とにかく練習する「稽古オタク」、50万円の小手などを集める「剣道具オタク」、全日本クラスの選手の情報にとにかく詳しい「個人情報オタク」、稽古はしないけど、どこの大会にもエントリーする「試合オタク」、映画やマンガの剣道シーンを見つけて、あの構えは違う、剣道を愚弄していると非難する「剣道パトロールオタク」、実際に剣道はやっていないが、よく見ているので目が肥えている父兄などの「観戦、応援、見取り(稽古)オタク」がいます。
さて、その中でどこの層を狙うかが重要になりますが、実は、やっている僕たちは臭いのが分からなくなっちゃうんですよね。だけど、送り迎えをしたり、剣道を見ている人は、もう臭くてたまらないわけです。
ウチの妻も臭い臭いと言っていましたし、この人たち「観戦見取りオタク」に向けて防具クリーニング剣洗(けんせん)のホームページ(HP)を作りました。ただ、すぐ注文が入るわけではありません。
そこで、防具を洗おうという動画を作りました。(「剣洗CM」で検索/鬼が出てくるようなCM動画なので)剣道パトロールオタクに怒られると思いましたが、意外とウケました(笑)
近年、販促の一番の要となっているのが、「レッツ剣道」というサイトです。全国の大会の試合結果を速報するサイトで、トップページのバナーだけでなく、生配信も始まり、その中にもCMを入れてくれるようになって、剣道防具が洗えるということが少しずつ知られるようになり、注文も増えてきました。
今、95%がエンドユーザーからの依頼ですが、残りの5%は全国の剣道防具販売店さん30社ほど。こんな時代ですから、中には防具をネットで販売しているところがあって、そこに剣洗も入れてもらったのですが、ウチよりそちらのHPの方が、見せ方がうまい。
受注した品物は、ウチで洗うのですが、今年の夏、剣洗の受注数が、そこに負けたことがあります。
剣道防具クリーニングで検索してもらうと、ウチの剣洗が今、たぶん1番に出てくると思うのですが、そのうち「作業をやっているのはウチなのに、窓口が違うところに移り変わっていくのではないか」と危機感があります。対策も考えていますが、ネット上での見せ方というのが非常に大切だと思っています。
剣洗のCM動画(複数パターンあり、その一例)
(全面でご覧になりたい方はこちら)
独自のマンション外交、クリコムのできるまで
カラキヤ洗染㈱川村昌大社長
カラキヤ洗染㈱は今年で110周年、私のひいおじいちゃんが創業しました。東京の港区で外交メインでやっていて、営業8人+店舗で売り上げは3億5000万円ほど。ウチの会長(前社長)は叔父です。その御用聞き外交のカラキヤから分かれて生まれたのが、クリコムです。こちらは、マンションのコンシェルジュやフロントなど、ホテルライクに行うクリーニングの会社です。2003年に作りました。
カラキヤでは、最初は工場で洗い場の仕事をやっていましたが、途中で少し経験した営業が楽しくて、あと会社はやはり売り上げを作らないととの思いも強かったので、会長(当時は社長)に「営業をやらせてください」と言って、外にも出るようになりました。工場の合間を見て動きましたが、既に決まった店に出している人から、なかなか飛び込みで仕事を取れるものではありません。
そこで、新しいマンションに引っ越して来た人を狙えばいいだろうと考えました。車で回っていれば、新しくマンションができるなと分かるので、引っ越しのトラックがとまっていれば「何号室ですか?」と聞いたり、部屋番号が書いてあったりするので、そこに飛び込んでいったり。
当初はカラキヤの仕事としてやっていましたが、色々と大変なことがありました。一番はカラキヤは外交なので、月・木ルート、火・金ルート、水・土ルートが基本ですが、品質を優先して納期をずらしていたので、シミの有無等によって結構遅れが出ていました。フロントにとっては、よくないことですし、マンションの仕事はその後も増え、納期の部分で本当に困っていました。
そんな時、あるフロントの方から、「カラキヤさんは料金が高くて、納期も遅い。だから、安くて早い店も入れたい」と言われてしまいした。せっかくたくさん出してもらえるのに、2社になると売り上げも下がってしまうのでそれは困る…と追い詰められたところで、カラキヤの社員の実家でランドリーのみのクリーニングをやっているところから、「仕事がなく廃業を考えている」と相談がありました。
そんな偶然が重なったことと、会長が出資金を出してくれるなど応援してくれたことも大きく、「会社を分けようか」となり、誕生したのがクリコムです。ドライは、ランドリー工場と同じエリアの同業者に手伝ってもらうことにしました。いまは取引先工場がだいぶ増え、10社以上とお付き合いさせていただいています。
また、北海道や関西など、行けないところからの仕事もいただくようになりましたが、様々な業界の会で知り合った仲間にお願いできるようになってきました。
■スピンオフ創業のメリット
スピンオフ(系列会社)創業というのは、事業承継には一番良かったのかなと思います(川村氏はクリコム創業後、カラキヤの社長にも就任)。いきなり本業をやらせて失敗すると大変ですが、そうならないために、まずは別会社にして、その人を見る、という方法は、リスクの低い事業承継だと思います。それに、新会社だと事務部門も大きな負担になりますが、そのまま社名を変えるだけでできたので、非常に負担が少なかった。
色々偶然が重なってできたクリコムですが、こうしたいという気持ちがあるからこそ、それを拾えたのだと思います。