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新春特番 -主幹独話(ひとりごと)-

目新しい発明・開発技術がでなくとも何かと結びつけ〝新結合=革新〟を興す


ZEN20230101_14-1経済学をめぐる巨匠たち

わが業はどうすればこれから先の時代に欠かせない革新(イノベーション)ができるのだろうか。産業を立て直すにはベンチャービジネスが必要で、そのベンチャーはイノベーションによって起こるとされる。

ふだん何気なく見聞きしている『イノベーション』という用語であり、新機軸、技術革新、と云った言葉自体の意味は多くの人が知っているところだろう。とりわけ、日本では『技術革新』と訳され、使用されている。 ところが、イノベーション=技術革新は間違いだと自論を述べるコンサルタントもいる。『数十年前のこの誤訳が現在の日本のイノベーションの停滞をもたらせたと言っても過言でない』と述べている。

なぜなら技術革新がないとイノベーションは起こせないという認識を企業人に与え、日本企業がこぞって、ひたむきに技術革新に奔走してしまったからだと指摘している。まさに慧眼鋭い主張である。

そして本来の意味としては何が的確かと言えば『イノベーション=新結合』と訳すのが正確だというのである。  実はこれはオーストリアの経済学者であるJ・Aシュンペーターの提唱だ。それによればイノベーションとは企業者が生産を拡大するため、生産方法や組織などの組み合わせを替えたりしてイノベーションを起こすことができるとしたものである。

筆者はここで思いだした。たしか以前の全ドラ新年号でシュンペーターの「新結合」について書いたことである。『革新なくして経済と市場の発展はない』と。そしてここが肝心なところだが『目新しい発明・開発技術がなくとも従来のドライクリーニングを超える新しい時代の革新を興すことができる。だから革新と『新結合=組み合わせである』と。

そしてその組み合わせの方法には5つの条件について次のように語っているのである。

1 新しい財、新しい品質の創出。
2 新しい生産方法の導入。
3 新しい市場への参入。
4 新しい資源の獲得。
5 新しい組織。

これらの条件の意味は解説しなくても文字どおりに読めばわかる。筆者は上記の新しい生産方法のところを『新しいサービス体系』と読み替えてもよいと考えている。

例えば、クリーニング+コインランドリーの併設も宅配サービスも、あるいは家庭からの洗濯代行や企業や公共施設からのカーテンクリーニングなどなど、新結合によって業態の拡大または変化を促すことができるだろう。

繰り返すがここで重要なポイントは組み合わせの仕方を変化させることによって経済、市場、業界のしくみが今までとはまったく違った形やコトが創造されると主張したことである。革新とは創造的破壊を意味するだろう。

例えば江戸時代の幕末においては籠屋は全国に1万台はあったともいわれる。それが明治になると多くが人力車に替った。以前にも書いたが、例えとして駕籠屋が近代化と称して駕籠を金箔にしたり、座席を替えたりしても近代化ではないとFQM研究所の涛川進氏は常々語っていた。つまり、一つの変化が他にも変化を及ぼす。帆船が汽船になっても船が変わるだけでなく、交通や港湾システム、さらに乗船客の集め方までも替わるわけだ。

もう一つ、シュンペーターは古きを破壊し新しきを創造するには先見性や独創性、実行力など、こうした資質を持って新結合を具現する人を『企業者』と呼んでいる。企業者の機能は発明を利用すること。原材料の新供給源や生産物の新販路を開拓することなど先述のとおりである。シュンペーターはこうした企業者が多く存在し、革新を興していれば資本主義は維持できるが、企業者がいなくなれば資本主義は衰退もしくは消滅するとも述べている。

同じことは企業者がいなくなればどんな業界も存続できなくなると解釈できる。かつてマルクスは『資本主義はその欠点故に滅びる』と言ったそうだ。しかしシュンペーターは逆の視点から『資本主義は成功する故に滅びる』と。企業者が健在であればと云う意味かも。意味は深い。(小室直樹著『経済学をめぐる巨匠たち』(ダイヤモンド社刊)より主に引用。

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