最終更新日:

伊藤良哉の現場探訪

「作業」と「対処」と「管理」 問題対処に追われる工場管理者

株式会社エムアイイーシステム研究所 代表取締役

伊藤良哉 (いとうよしや)

この連載は二か月に一回なので、書き始める前に前回の内容を読み返すのだが、今年は本当に災害だらけだった夏が過ぎ、ようやく落ち着いた季節を迎えていることを実感する。

とはいえクリーニングの現場が抱える問題は何も変わっていない。作業のムダをなくして生産性を上げること、ミスを無くしてクレームを減らすこと、従業員の能力と定着性を高めてシフトを安定させること、突き詰めればこの三つに集約される。そしてこの三つに取り組む意欲のある社員を育成すること、これが一番の課題だろう。

そのための「5S」であり「作業の標準化」なのだが、業界が世代交代しても進まないのが現実だ。三十年以上にわたり現場を見て来たが、ほとんど変わりがない。

仕事に対する考え方も同じだ。自分は社員研修で必ずする話があるのだが、いわゆる仕事には「作業」と「対処」と「管理」がある。それぞれに大切な役割・意味があり、それを意識して時間を過ごすかどうかでその結果に大きな差が出る。

「作業」は直接的付加価値を生み出す行為であり、繰り返し行われることが前提である。したがって時給の対象となる工場内の作業や受付業務はすべてこれにあたる。

「対処」はその「作業」に支障をきたすような異常発生が起きた場合の対応を意味する。機械の故障、クレーム発生、予定外の従業員の欠勤等、日々発生するトラブルを速やかに解決し、正常な状態に戻す行為を言う。

だから「対処」そのものにはもともと付加価値は無く、いかにマイナスを少なくするか、言葉を換えて言えば傷口を浅くすることが目的となる。

最後の「管理」は、いかに「対処」を減らして、正常な「作業」が行える状態を維持するか、ということになる。これを「異常管理」と言い、「対処」の原因となる問題発生をいち早く発見し、作業レベルで正常復帰させる仕組みをつくることになる。ただし「管理」そのものには直接的な付加価値は無い。

これを踏まえると、工場管理者のほとんどは「問題対処者」であり、作業経験を積んで問題対処には長けてはいても、管理そのものが苦手という人が多いし、自分の時間を「対処」ばかりに費やすから「管理」に回す時間が無くなる。この状態を「忙しい」と勘違いするとますます「管理」から遠ざかる。現場の改善も進むわけが無い。

もう1つの問題は「対処」に長けている人間がいると、そのこと自体が問題隠しになってしまうという点である。問題は表面化してこそ問題である。むしろこちらの方が問題かもしれない。

ニワトリが先か卵が先かみたいな話だが、たいていは「管理」より「対処」が先である。慣れたことは楽だからだ。だから誤配も紛失も無くならない。

この記事は、有料会員限定です

  • 有料会員登録すると、全ての限定記事が閲覧できます。
  • この記事のみ購入してお読みいただくことも可能です。
  • 記事価格: 300円(税込)

この記事の著者

伊藤良哉 (いとうよしや)

株式会社エムアイイーシステム研究所 代表取締役
1959年1月生まれ、名古屋出身。
1983年全国ドライ新聞社(現ゼンドラ)に記者として入社。その間にトヨタ生産方式の物の見方・考え方に触れ、クリーニングでの現場改善に力を入れた取材・執筆活動を行う。またその活動を通じて、トヨタ生産方式の産みの親として世界的に著名な元・トヨタ自動車工業副社長の大野耐一氏と出会い、師事して各地を歩く間に精神面・活動面ともに多大な影響と薫陶を受ける。
1985年に改善コンサルタントとして独立、1989年には株式会社エムアイイーシステム研究所を設立。さまざまな業種対象にトヨタ生産方式に基づいた現場改善のコンサルティング活動行なう。
これまでに手掛けてきた業種は、クリーニング業はもちろんそれ以外に、リネンサプライ・食肉加工業・水産加工業・自動車関連部品工場・米穀業・窯業・塗装業・染色工場・測量事務所等と多岐に渡っている。また作業改善・体質改善だけでなく、新人社員研修、工場管理者研修、マニュアル作成等、講演やセミナーも同時に行う。
「クリーン忍術心得帖」パート1・2を著作(ゼンドラ既刊)を筆頭に著作も数多い。
主な著作
◆「クリーン忍術心得帖 Part1〜11
◆「現場改善実践マニュアル」
◆「アパレルの仕上げ術・1〜3」
◆「アパレルの仕上げ術・Q&Aハンドブック」

㈱エムアイイーシステム研究所

関連記事