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伊藤良哉の現場探訪
業界へのトヨタ方式導入 先入れ・先出しが第一だった
たまには筆者の専門分野でもあるトヨタ生産方式の話をしよう。
トヨタ生産方式とは文字通り自動車メーカーのトヨタのモノ作りの考え方である。モノの作り方で生産性が変わる、というのは誰しも知っていることだろう。仕事は段取り八分などといって、現場にはスムーズに仕事を進めるためのノウハウがあり、仕事をしていれば体験的に身についたりもする。しかし企業レベルで体系的に構築したものは少ない。その稀な例がトヨタ生産方式である。
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トヨタ生産方式とクリーニング業界との接点が産まれたのは、今から四十年ほど前。業界の某経営グループがトヨタ生産方式を実践しているとのことで、ゼンドラとしてその様子を取材したのがきっかけであった。
当時は高度経済成長が鈍化し「マイナス成長期」とも呼ばれ、さらに人手不足と賃金上昇が重なって生産現場の悩みが大きくなっていた。どの企業も売上不振・利益縮小に喘ぐ中、トヨタだけが利益を増やしていると注目を浴び、その秘密として脚光を浴びたのがトヨタ生産方式だった。そこでクリーニングでもトヨタ方式導入を呼びかけようとなった。
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ところで現場で使われる技術には大きく分けて「固有技術」と「管理技術」がある。固有技術とは、クリーニングならさしずめシミ抜きとか洗浄とか仕上げなど、他社との差別化をはかるための技術である。一方、管理技術とは作業を効率よく進め、生産性を上げるための技術である。
同じ売上でも企業によって利益に差が生まれるのは、この管理技術のレベルに差があるからである。そういう意味ではトヨタ生産方式は管理技術であるともいえる。
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話を戻そう。当時のクリーニングの現場は、管理技術という視点で見ると、まさに無管理だった。規模の大小を問わず、工程別・アイテム別の専門分業作業、といえば聞こえは良いが、なんのことはないまとめ仕事だったため、遅配・混品・紛失のオンパレードだった。
ちなみにクリーニングでは遅配・混品・紛失は今も昔も現場管理レベルのバロメータである。さらに補足すると、遅配・混品・紛失は何の利益も産まないコストの固まりである。管理レベルが低い工場は利益率が低いということの証拠だ。
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このあたりが現場改善のニーズであり、切り口だったと記憶する。
ではその解決策は何だったか。なんのことはない、先入れ・先出しが守れるように順番を決めて流す、という極めてシンプルなことだった。そしてこれは今も変わらぬ現場のテーマだと思う。
順番を決める、つまり区切りを付けることと、それが誰の目にも一目で分かるということ、ここに尽きる。しかしやってみれば分るが、この簡単なことが意外と難しい。
そしてもうひとつ、前後工程のタイミングをどうとるか、だ。(つづく)
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