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瀧藤圭一の戦略会計【実践編】
「Cash is a fact, profit is an opinion(利益は意見、現金は事実)」
このように、そもそも損益計算書の税引後当期純利益と手元に残る現金とでは違いが生まれているので、それがプラスであったからといってそのまま鵜吞みにすることは危険です。税引後当期純利益とは会計期間内で新たに作られた価値であって、現金の残高ではないということです。
必要になるのは現金の裏付けです。税引後当期純利益の数字に現金が伴っているのであれば、その利益は質の高い利益と呼ぶことができるのです。そこで「アクルーアル」の登場です。これは会計発生高と訳され、決算上算出された税引後当期純利益と現金収支(キャッシュフロー)の差を表しています。
計算式はアクルーアル(会計発生高)=(税引後当期純利益+特別損失-特別利益)−営業キャッシュフローで求めます。なぜ特別損益(特別利益と特別損失の合計)を差し引くかといえば、そもそも特別損益とはその時だけといった一時的に得た利益や損失なので、例えば経常利益が大赤字であったとしても、補助金収入とか土地を売却して多額の利益を得るとか、そういうことによって黒字化することもあるわけです。このような特別の損益を除外して計算した方が、より現実的な数値を求めることができるからに他なりません。
さて、ここで用いる営業キャッシュフローとは企業が商品やサービスの販売によって得た収入から、仕入れや営業活動に必要な費用を差し引いた金額でした。直接法と間接法があり、直接法は手間がかかり過ぎるために、一般的には間接法が広く用いられています。
前にも記述しましたが、営業キャッシュフローの間接法の求め方は、まず税引前当期純利益から営業利益(本業の儲け)に関係のないものを差し引き、営業活動でのキャッシュフローを求めます。具体的に差し引く科目とは、営業外損益、特別損益、前払費用と未払費用の増減額、売掛金や受取手形の増減額、棚卸資産や買掛金、支払手形の増減額等です。その上で、実際に現金を支払っているわけではない費用である減価償却費や貸倒引当金を加算します。
売掛金や買掛金等の処理の仕方は、貸借対照表の前期と当期を比較します。売掛金等は増えていれば減算し、減っていれば加算します。同じように買掛金等では増えていれば加算し、減っていれば減算します。つまり、営業キャッシュフローとは、商品の仕入れや販売、サービスの提供とそれにかかわる費用など、主に営業活動による現金収支を表したものと解釈すればいいでしょう。
ではなぜ質の高い利益のことを現金の裏付けがある利益と呼ぶのか。それを詳しく解説すると、一般的に経営サイクルとは、仕入れをおこない製造や加工、処理(クリーニング処理)を施し、まずは仕入代金を支払います。それらの商品やサービスを販売、提供し、その結果代金を頂くという売り買いと支払い、そして回収といった各ステップから構成されます。
会計的利益は販売時点やサービス提供時点で計上されます(実現主義)。その一方、この販売やサービス提供に付随するそれらの代金の回収は、その販売や提供時よりも遅いタイミングでなされるのが一般的です。この代金の回収を見越して、販売やサービスの提供時点のタイミングに前倒しで利益計上される金額と、実際に代金である現金を回収するタイミングのズレから「アクルーアル(会計発生高)という分析指標が生まれました。
アクルーアルが増加するということは、その分だけ売上計上と利益計上された金額の内、実際には貸し倒れ等で現金の回収が不可能になるかもしれないという金額も増えることになり、資金回収の不確実性が高まると考えられます。ということは、アクルーアルの値が小さい、あるいはマイナスであれば、現金の回収が当初予定した金額を超えて進んでいることになり、手元に想定以上の現金を抱えていることになります。
アクルーアルの値が小さければ小さいほど、将来の資金回収の不確実性が低くなり、資金繰りに対する安全性が高まります。その結果、経営に安定性が生まれ、プラスの印象を与えることになります。これが質の高い利益であり、「現金の裏付けがある利益」ということになります。
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