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売上アップスーパーレポート
「思い込み」を乗り越えデータを基に正しく見る習慣〈2〉
「今年は暖冬だから、出ない」その対策法は?
業界のご支援先のうち、先々への意識レベルの高い社長・幹部さんからは、「暖冬対策」の話題が出ています。「暖冬だからこの春は需要が減るのでは?」「今のうちからできる対策は?」「セールを早めたほうが良いのでは?」等々。
また、世間では「新型コロナウイルス」の感染拡大が話題となっています。原稿を書いている2月2日現在で、中国の感染者1万4,000人、死者300人。日本にも感染者が12名、日本人の感染者も出ている状況。WHOから緊急事態宣言が出され、政府は入国制限をスタートしています。
このような「暖冬対策」「新型コロナウイルス」についても〝ファクト・フルネス〟に記載されている観点から、正しく見て正しい判断を行うヒントをレポートしたいと思います。
クリーニング店に「暖冬」対策は、無意味!?
結論から言うと、「暖冬だから、春のクリーニング需要が減る」ということはありません。つまり「暖冬」でも、市場は縮小しないのです。
かなり見にくいですが上の資料1の図表。これは、気象庁発表の月別平均気温・最高気温と、総務省の統計・1世帯当たりクリーニング支出金額を過去20年間分並べたものです。この表をもとにして解説します。
過去12月〜2月(=世間一般の冬)の平均気温が高かったのは、2004年、07年、09年。それらの年の3月〜6月(=ク業界の春)のクリーニング需要金額の増減率と、年間のクリーニング需要金額の増減率を比較したところ、極端な差がないことがわかります。
それどころか、年間需要金額の増減率を上回っている年も見受けられます。つまり「暖冬」が理由で、その年の春の需要が落ち込むことはない。ということが読み取れます。ここ10年間で最も平均気温が高かったのは2016年。この年も、年間の増減率と春の限定した増減率はほぼ同じです。
次に、暖冬の対極である「寒冬」の場合は、どうであったのか検証してみます。
冬の平均気温が著しく低い(寒冬)は、2006年、12年、15年、18年。
それらの年の春のクリーニング需要金額の増減率は、年間のクリーニング需要金額を大きく上回っています。寒ければ寒いほど上回る傾向があります。「寒冬だから、春の需要が増える」ということは、事実として言えるようです。つまり「寒冬=クリーニングが出る」という事実の「裏」である「暖冬=クリーニングが出ない」という「対偶」の成立を、大多数の人が「思い込み」で信じてしまっていた。これが、真実なのです。
ちなみに「寒冬なら、クリーニングが出る」の「逆」は「クリーニングが出るなら、寒冬」となります。これもそうとは限りません。過去20年間のデータを見れば、消費税導入等、経済状況によって春の需要が増える年もあります。
なぜ、寒冬なら需要が増えるのに、暖冬でも平常年と変わらないのか?消費者心理や動向を推察することは、マーケティングの第一歩です。これについては、御社のレジデータでそれぞれの年、どんな商品がどう動いたのか?を分析すれば見えてくるはずです。
資料1からは他にも様々な傾向が読み取れます。たとえば、「今年は暖冬」と言われていますが、それは直近の「1月」に限った話で、12月は特別な「暖冬」ではなかった。ということも読み取れます。これは人間心理の「近接誤差」という現象です。直近の出来事のほうが強く印象に残り、期間全体の評価に影響してしまうのです。果たして、2月もこのまま「暖冬」となるでしょうか?
この冬の「暖冬」を前提とした結論
A:必要以上に「暖冬」を恐れることはない。本当の敵は、自分の頭の中にある「不景気感」。
B:これまで順調に売上を上げることができている会社では、普段通りのマーケティング手法を基本に肉付けすれば、全く問題ない。
C:結局、その店舗の持つ実力(=商品力を軸として、サービス力・店舗力・接客力・販促力の総合計)の通りに売上がついてくる。
D:しかし「暖冬」が「プラス要因」ではないことは明らかである。万全の準備と対策で臨む。
E:大きな流れからすれば、今年はクリーニング需要にとって良い年回りで、需要増の可能性が高いと予測しています。この根拠と流れのつかみ方も存在している。
新型コロナウイルスの実態について
これについても、数字を見れば全体の実態が把握できます。武漢市の人口は1,108万人。感染者が1万4,000人とすれば、感染する確率は多く見積もっても0.2%程度。1,000人に2人の確率でしかありません(※中国政府が正確な情報を隠したり、把握しきれていない…ということがない前提で)。致死率は2%で、SARSやMERS、エボラ出血熱を大きく下回ります。
一方、政府チャーター機で武漢から帰国した日本人200名のうち、感染者が3名。感染確率は1.5%。これを武漢の人口に換算すると、実際には少なくとも16万人以上が感染している可能性があります。致死率が2%なら、3,000人以上が命を落とす予測が成り立ちます。
対応するワクチンがないため危険ではありますが、前回の連載でもお伝えした「恐怖本能」「過大視本能」に当てはまる例と言えます。死亡者の数はエイズ(90%)や癌、貧困などのほうがはるかに高いのです。
書籍「ファクト・フルネス」より
「思い込み」による判断ミスを食い止めるために、知っておくべき10の方法。残り5項目を前回に引き続きご紹介します。
6)パターン化本能「ひとつの例が全てに当てはまる」という思い込み
まず分類自体が正しいのか?疑ってみることが大切。間違った「パターン化」をしないように…集団の中の違いを探す(大規模な場合は特に小さく)。違う集団の中の共通項を探す。別の違う集団の間の違いも探す。パターン化してしまった「価値観」を変えるには旅がおすすめである。しかも、色んな所得レベルの国の常識を知ること。エレベーターの開閉に安全装置がついている国は一部で、貧困国のエレベーターは足を挟むとドンドン閉まってゆく。
7)宿命本能「すべては予め決まっている」という思い込み
ゆっくりとでも変化していることを認識すること。アフリカの貧困状態が続き、抜け出すことは難しい。西洋の発展が続く。ということも実は変化している。これからはアジアとアフリカが大きな市場となる。国の所得、教育、医療のレベルが上がるほど、女性一人当たりの出生人数は少なくなる。現在の出生数はアメリカもイランも同じレベル。キリスト教徒も、イスラム教徒も同じレベル。
知識には賞味期限がある。牛乳や卵、野菜と同じである。常にアップデートしなければ使えない。
8)単純化本能「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
ひとつの知識が全てに応用できるとは限らないと覚えておくこと。自分が肩入れしている考え方の「弱点」を知っておいたほうが良い。賛同してくれる人、自分を裏付ける例を集めるよりも、反対意見の人に会い、違う考えを取り入れる。
また、数字の裏付けとして現場で何が起こっているのか?を知らなければならない。たとえば、民主主義さえも正しくないときがある。韓国が急成長したときには軍による独裁政治であった。近年、経済が急拡大した10か国のうち、9か国は民主主義レベルの低い国だった。どちらか一方が完全に正しく、どちらかが間違っているということは、ない。
9)犯人捜し本能「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み
「犯人」を生み出してしまう、根本的な問題の原因と対策に目を向けること。飛行機事故を睡眠不足のパイロットのせいにしただけでは次の事故は防げない。
問題を引き起こす原因とシステムを見直すことが必要。犯人を見つけたとたん、ヒトは考えることをやめてしまう。仕組みを改善してゆくことが大切。物事がうまくいったときは一人のヒーローではなく、名もなきヒーローと仕組みを称えよう。
10)焦り本能「今すぐ手を打たないと大変な事になる」という思い込み
小さな一歩を積み重ねることが大事。と知ること。危機やプレッシャーを必要以上に感じて「分析せず、やみくもに動くこと」「何をやってもダメだから、もうあきらめよう」となってしまうこと。数字を見て、冷静に。かつ極端な予測に振り回されず、1つずつ実施し、効果を測定しながら進めると間違いが少ない。
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