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西山誠の事故品から学ぶ
染料による損傷
関西で30年以上放送が続いている「探偵ナイトスクープ」という人気TV番組がある。全国的に放送されている時期もあったので、ご存じの方も多いと思うが、視聴者の調査依頼に基づいて、お笑い芸人が探偵役となり、数々の依頼・難問を解決するというパターンの元祖的番組である。
何年くらい前であろうか、この番組に小学生の女の子からの依頼で、「お父さんが、『何年もタンスにしまっておいたTシャツを着たら、一瞬にしてボロボロになり、Tシャツの形がなくなってしまった』と言っている。これはウソではないか?本当にそんな事があるのか?調べて欲しい」というものがあった。染料や染色のことを少しでもかじったことがあれば、「ああ~アレね!」と思い当たる事故である。
ネットで検索すると、「黒のTシャツを洗濯したら、洗濯機の中で原型を留めないほどにバラバラになっていた」という例も、写真付きでたくさん出てくるが、意外にもこの業界ではあまり知られておらず、原因が分からないまま弁償するケースもあると聞く。今回はこの染料による損傷事故について考えてみよう。
上の写真は、綿100%のコーデュロイの上着である。ドライクリーニング、タンブル乾燥したところ、着用中によく擦れると思われるところのコーデュロイのパイルが完全に消失し、あちこちに破れが発生していた。手で引っ張るとまるで紙のように簡単に破れ、手には繊維クズがたくさん付着する。そして独特の酸臭がある。生地表面のpHを確認したところ、かなりの酸性を示していた。
以上の事から、本品の損傷の原因は、染色に使用されていると推定される“硫化染料”の成分中の硫黄が、着用・保管中に徐々に酸化し、その結果、強力な酸である“硫酸”となり、綿繊維にダメージを与えたためと考えられる。
硫化染料とは?
元々水に不溶な染料であるが、硫化ナトリウムで還元し水に溶かして染色する。その後、空気酸化や過酸化水素などで強制酸化させることにより発色させ、元の水に不溶な状態になるので、洗濯に対して強い堅ろう度を示す。
さらに日光による色褪せも起こりにくく、低コストであったため、日本においてもかつては綿や麻の染色によく使用されていた。しかし、鮮明な色相のものが少ないことや排水処理の問題などがあり、また性能のよい反応染料が植物系繊維の染色の主流になったことにより、現在国内ではほとんど使用されていない。
しかし、東南アジアや中国、インドなどでは現在でもよく使用されているようで、黒や濃紺、濃い茶系の綿や麻製品に使用されていることが多い。
欠点として、染料や助剤に含まれる硫黄分が、保管中に徐々に酸化して硫酸を生成することにより、綿や麻などの植物性繊維にダメージを与えてしまうことがある。特に染色後の水洗処理や中和処理が不十分なものは、この現象が早期に起こる可能性がある。
そして、この状態になったものを知らずに洗濯・クリーニングを行うと損傷が発生し、クレームになることがあるが、上記の通りクリーニングが原因ではなく、染料の特性とも言える現象である。
冒頭の探偵ナイトスクープの件もおそらくこれであろう。このTシャツに硫化染料が使用されており、長期間洗わずに保管されていたので、着た瞬間にボロボロになり、Tシャツの形がなくなってしまうと言うような事が起こったのであろう。この番組内で女の子の父親は、実はバラバラになったTシャツを買ったとき、もう1枚買って保管しており、それをテレビカメラの前で着用すると、やはり一瞬にしてバラバラになったという“オチ”がついていた。
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