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宇井直樹のちょっと言わせてヨ

界面活性剤の仕組みを理解することは大切です

宇井直樹 (ういなおき)

今年の繁忙期は遅いスタートとなったようです。梅雨入りも例年より遅い予想で、遅れて始まった繁忙期が現在も続いているというお店も多いのではないでしょうか?

今回は我々の使用する、あらゆるものに入っている界面活性剤についてお話しようと思います。界面活性剤は洗剤の主要成分であり、しみ抜き剤や仕上げ剤などにも重要な役割を果たす成分ですが、分かっている風な人も、まったくわかっていないなという人がけっこういます(笑)。

僕も最初は洗剤みたいなものという位の認識であり、言われた通りに使っていれば、基本的にはそれでも仕事をすることが出来ます。しかし、プロとして毎日使うものですから、ある程度理解しておく必要があると思います。大まかには、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤の4種類に分類することができます。

洗浄力に寄せた洋服洗剤であれば、陰イオン界面活性剤に分類される界面活性剤が中心となる場合が多く、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)など、皆さんも聞いたことがあるかもしれません。陰イオン界面活性剤の特徴としては洗浄力が強く、安価なため、多くの洗剤に使用されているわけです。

逆にリンスやトリートメント、仕上げ剤などには陽イオン界面活性剤が使用され、静電気防止や殺菌効果などの特徴を持ちます。最近の洗剤にはエーテル系の界面活性剤が多く使用されていますが、これらは非イオン界面活性剤にあたるもので、消費者が気にする健康被害などの視点から、洗浄力は穏やかですが、刺激性が少ない界面活性剤として利用されています。ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどがそれにあたり、洗剤成分にもよく記載されています。

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よく界面活性剤には親水基と親油基あり、親油基が、油性の汚れと結びつき、親水基が水側に引っ張られることで、汚れが取れていくという説明があると思いますが、大切な事は、こうした各々の特徴を持った界面活性剤を、用途によって濃度や配合を変えたり、助剤などと混ぜたりして、売られているものがあらゆる洗浄剤であるということです。

しみ抜き剤も基本同じです。ただ、洗剤は洗浄力が一般的な汚れを想定してあり、かつ安全性への配慮が大きいのに対して、しみ抜き剤はそれよりしみや汚れの種類を限定して、成分の効果を強めにしたり、より強い薬品を助剤として効果を上げていたりする洗浄剤です。場合によっては、濃い・薄いの違いでしかないものもあると思います。

最初に界面活性剤の種類について解説してしまいましたが、洗剤を、漠然と汚れを取るものとだけしか理解していない人が多いのが、残念です。界面活性剤を広義に解釈すると、何かと何かを混ぜ合わせてくれる、つまり水と油に影響し合い、混ざるきっかけを作ってくれるものということです。混ざるという事は、汚れやしみを繊維から界面活性剤が浸透することで柔らかくしたり、或いは繊維から離れやすい細かい粒子になって、繊維にくっついていられなくなるということです。

また、界面活性剤には表面張力を下げる効果も期待できます。例えば、ウールの生地に水を垂らすと、ある程度弾くと思います。その弾くという状態は表面張力があるということですが、水と洗剤を混ぜたものを垂らすと、弾くことなく繊維に吸収されていきます。

また、水温を上げたり、アルコールの働きで、同じように表面張力を下げたりすることができます。表面張力が下がるということは、繊維の奥まで成分を届けてくれる役割も果たしてくれているということですから、お湯で洗浄する意味が理に適っているわけです。

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そして、汚れを界面活性剤が取り囲むことで、移染防止や再付着防止という効果もあります。世の中には多くの種類の洗浄剤が存在しますが、テーマになる謳い文句に合わせて様々なレシピで混ぜ合わさっているものが、界面活性剤が入った洗浄剤の正体です。

僕が言いたいのは、皆さんも界面活性剤から独自の洗剤を作るべきだという話でも、界面活性剤の種類をたくさん知っておくべきだという話でもありません。界面活性剤を知ることで、毎日何気なく使っている洗剤と、新しく勧められた洗剤の違いや、しみ抜き剤のより効果的な使い方などが出来るようになり、よりいろんなタイプの汚れやしみ、生地などに対応することが出来るようになるということです。こうした仕組みを知ると、洗濯機に洋服を入れる前に洗剤を入れる理由が理解できると思います。

もちろん汚れを取るのは、繊維が濡れるとどうなるかとか、洗浄液を温めるとどうなるかとか、いろんな要因が複雑に影響しています。その中心的な存在である界面活性剤そのものが、どういう仕組みで汚れを分解するのか、きちんと理解するという事は、この仕事を生業とするならば、とても大切な事だと思います。



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この記事の著者

宇井直樹 (ういなおき)

オフィスうにぞう/ユニクリーニング代表。


自身のお店は東京都目黒区にあるユニクリーニングとして2016年からリニューアル展開している。

クリーニング業者やアパレル業者からの専門的な相談やしみ抜き依頼や、着物など特殊なものまで、全国から依頼が集まる。不入流東京伝習館では伊藤当主とプロのクリーニング店に指導。


業界紙コラム連載をはじめ、BS松本明子の健康になりたい、ZIP、ラヴィット!、あさイチ、ノンストップ、沸騰ワード10などテレビ、雑誌と、不入流しみ抜き師聖、しみ抜き洗濯芸人うにぞうとしてメディア出演多数。


他にも指導、監修、執筆など幅広く活動中。2017年8月22日には宝島社からムック本「不入流宇井直樹の簡単しみ抜きマニュアル」が発売される。


不入流しみ抜きのブランディングに成功した経験を踏まえ、技術指導のみならず、スタッフコーチング、ポップデザインなど様々な分野からアイディアを提供しクリーニング店をサポート。


「気は心」「笑う門には福来る」が自身の座右の銘。

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